2010年4月23日金曜日

WACCにわくわく

しばらく離れていた企業価値の話。インタビューで聞かれる可能性も高いので、その前にまとめておきたい。というわけで「難しい!」と言わずお付き合いください。きっと将来の資産運用に役に立つはず。

企業価値に向上させるにはーを考える前に、WACCについてもう少し見ておきたい。前回のなぜ割り引くのか?で客観的な割引率としてWACC(Weighted Average Cost of Capital)を使うのが一般的と言いました。友人曰く、実際にUBSでもバリバリ使ってるとのこと。

WACCは下記の式で計算されます。

WACC = D/(D+E)×rD×(1-税率)+E/(D+E)×rE
D: 有利子負債
E: 株主資本
rD: 負債コスト(割引率)
rE: 株主資本コスト(割引率)

なんかこう書くと難しい式に見えますね。要は、B/Sの右側の有利子負債Dと株主資本Eの加重平均をとって、それぞれの資本コスト(割引率)を掛けて足したもの。有利子負債のほうに(1-税率)がついてるのは、金利の支払いには税金控除があるから。株主資本には配当の税金控除がないのでついてません。

ここで理解したいのは、資本構成によって企業全体の割引率は変化すること。一般的に株主資本コストは有利子負債コストに比べて高い(なぜなら株式のほうがリスクが高いので、要求されるリターンも必然的に高くなる)、かつ金利の節税効果があるので、負債の割合を増やすと企業全体の割引率であるWACCを落とすことができます。逆に株式の割合を増やすとWACCは上がります。

ここからはより込み入った話になるので興味があれば。実際にトヨタ自動車のWACCを求めてみます。

WACCを求めるには会社の資本構成の他に、負債コストと株主資本コストを求めることが必要。負債コストの求め方には色々あるようですが、ここでは今から約9年後の2019年4月1日に償還予定の社債の割引率4.11%を使います。

次に株主資本コストはCAPMというモデルを使って求めます。これはリスクをマーケットによるものとその企業の株式特有のものに分けて考えて、株式全体の期待収益率(割引率)を算出します。CAPMの式は下記のように表されます。

E(r) = rf + β(rM-rf)
E(r): 株式の期待収益率(割引率)
rf: リスクフリーレート
β: 株式のβ
rM-rf: マーケットリスクプレミアム

リスクフリーレートには日本国債(10年)の金利1.34%を使います。βは株式のマーケットインデックス(TOPIXとか)に対する敏感度を表す指標。例えばある企業のβが2であれば、マーケットが1動いたときにその企業の株価は2倍動くということ。つまりそれだけリスクが大きいとも言えます。ここではBloombergから持ってきた1.10。マーケットリスクプレミアムは、TOPIXの10年間の収益率からリスクフリーレートを引いて・・・としたいところですが、あいにく10年間の収益率は-40.5%(ひどい!)。というわけで頼りないですが、2009年だけの収益率7.62%-1.34%=6.28%を使います。これらを上の式に入れて計算すると資本コストは8.25%と出ます。

トヨタ自動車の資本構成は2009年3月時点で有利子負債12.4兆円+株主資本10.0兆円。法人税率は40%とします。そうするとWACCは5.04%。これがトヨタ自動車の企業全体の資本コスト=期待収益率=割引率になります。

次こそは企業価値を向上させることを考えたいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿