最近ブログが小難しいという声が聞こえてきますが、もう少し続けさせてください。今回は企業価値に直接影響を与えそうな、現在のフリーキャッシュフローの使い道について。ちなみに将来の使い道は企業価値に関係ないので。
フリーキャッシュフローは資本提供者(有利子負債の債権者と株主)に帰属するキャッシュフローという定義でした。まず、企業がしなければならないのは有利子負債の返済と利息の支払い。これに選択肢はありません・・・基本的には。なので、デフォルトの心配がない場合、有利子負債の価値は変動しません。問題は株主資本の価値。これは、残り分をどう使うかによって変動する可能性があります。
1つ目の選択肢は再投資。これはその名の通り、企業が稼いだお金をさらに次の事業に再投資すること。B/Sの右側には内部留保として積み立てられ、左側には投資した資産が計上されます。現時点では株主資本価値は変わらず。その後、この再投資が株主の期待収益率(割引率)以上なら価値は上がり、以下なら価値は下がります。銀行に例えると、再投資は企業というかなり金利変動の激しい銀行口座に預け続けることを意味します。
ちなみに、もしものためにキャッシュとして持っておくことも可能ですが、キャッシュ自体は何も価値を生み出さないので、ビジネスモデルや経済状況に合わせて、積み立ては最低限にすべきとされています。あまりキャッシュが多いと「配当しろしろ!」とやっかいな人たちに狙われます。
ちなみのちなみに、共産党から内部留保に課税をなんていう提案があったと聞いたんですが、内部留保は企業が稼いだお金のうち、再投資にまわしたお金を表してます。共産党は企業に再投資をするな!ということなんでしょうか?
2つ目は配当。これは稼いだお金を株主に分配すること。さて、ここで問題。配当をすると株主資本価値は上がる?下がる?変わらない?
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正解は下がります。株主からすると投資したお金を経営者に託している状態なので、配当はその一部を引き出す行為にあたります。なので、託されているお金が少なくなれば、必然的に株主資本価値も(そして一株あたりの価値も)引き出された分だけ減少します。でも、株主は減少分と同等の配当をもらえるので、実際はトントンです。上の銀行の例を使うと、配当は株主が企業というちょっと変わった銀行口座から自分の預金の一部を引き出しているだけです。
もう一つ問題。ある企業は配当を増やすこと(増配)を決定しました。これは良いニュース?悪いニュース?
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正解はそれだけではわからない笑。良い見方をすると予想以上に稼ぎすぎてしまった。悪い見方をすると投資先がなくなってしまって、やむを得ず配当する。ずっと配当しなかったマイクロソフトが2003年から配当を始めました。これは市場が成熟し、これまでような再投資による成長が難しくなったというメッセージでもあります。配当をするという行為は同じですが、どういうメッセージがあるのかをしっかり見極める必要があります。
最後の選択肢、自社株買い。これは企業が市場に出回っている自身の株式を買い戻し、消却または金庫株にすることです。さて、同じ問題。自社株買いは株主資本価値を上げる?下げる?変えない?
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正解は下げる。ただ、一株あたりの価値は変わりません。具体的に考えると、ある企業の現在の株主資本の価値を10億円、発行済み株式数を1万株とすると、一株の価値は10万円。そして、その企業が発行済み株式数の50%にあたる5000株の自社株買いを実行。そうすると、キャッシュ5億円がB/Sの左側から消えて、右側にも同じ分のマイナス。一株の価値は5億円÷5000株=10万円で変わらず。
結局何をやってるのか?上の例を引き続き使うと、自社株買いは一部の株主が企業という口座から全額を時価で引き出していることに等しいです。なので引き出された分だけ残高は減ってしまいます。
これだけだと誰にメリットがあるのかわかりませんね。ここでポイントなのは「時価は必ずしも価値を反映しているとは限らない」ということと「自社株買いに応じる株主もいれば保有し続ける株主もいる」ということ。これらをふまえると・・・
・もし、時価が価値よりも低ければ(つまり割安であれば)、自社株買いに応じた株主が安く売ったために損をして、保有し続ける株主がその分得をする。
・もし、時価が価値よりも高ければ(つまり割高であれば)、自社株買いに応じた株主が高く売ったために得をして、保有し続ける株主がその分損をする。
という感じになります。
一般的に企業は「時価が割安だ!」と思って自社株買いをしてきます。そこには「もっと俺たちはやれるぜ」「実はいい機会があるんだぜ」という良いメッセージが含まれているかもしれないし、ハッタリかもしれない。なので、しっかり企業価値を見極める必要があります。
株主還元の配当と自社株買いの違いは上記の他に、配当は税金がかかるが、自社株買いで保有し続けることを選択すれば税金はかからないこと。そんな違いもあって、最近は配当よりも自社株買いが世界的に好まれる傾向にあるようです。
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